当研究室では特異な「構造」が示す新しい「機能」に着目して,(1)金属酸化物クラスターの合成と塩基触媒応用,(2)金属クラスターの物性・触媒作用の解明,(3)環境調和を目指した新しい触媒反応系の開発,に取り組んでいます.また,「構造」が示す「機能」の原理解明には機能を発揮している際の構造・電子状態の動的挙動を明らかにする必要があります.そこで,(4)放射光分光を用いたオペランド計測,による機能解明にも取り組んでいます.以下にそれぞれの研究の概要を示します.
(1) 金属酸化物クラスターの合成と塩基触媒応用
アニオン性金属酸化物クラスターは,酸触媒,酸化還元触媒,および光触媒として広く使用されています.中でも数個から数十個の金属酸化物ユニットで構成された金属酸化物クラスターは構成されるバルクの金属酸化物からは予想できない強い酸・塩基性を示すことが報告されています.最近、我々は6核や10核のV族(Nb, Ta)金属酸化物クラスターが二酸化炭素固定化反応のための塩基触媒として働くことを見出しました.当研究室では,金属酸化物クラスターの塩基性質を原子レベルで解明し,二酸化炭素変換反応への応用を目指しています.
(2) 金属クラスターの物性・触媒作用の解明
構造因子(組成,サイズ,配位子,担体)による一元系金属クラスターの電子状態・幾何構造制御は,反応性の向上や光学特性の発現など機能性材料の開発手法として注目されています.しかし,これら構造因子による金属クラスターの電子状態変化を原子精度で実験的に明らかにした例はほとんどありません.当研究室では,元素選択的に電子状態や局所構造がわかるX線吸収分光法により構造因子が金属クラスターの特性に及ぼす効果を詳細に調べ,高活性な触媒や高機能材料の開発に取り組んでいます.
(3) 環境調和を目指した新しい触媒反応系の開発
環境問題解決のため,二酸化炭素変換技術,未使用エネルギー利用技術,低エネルギー物質変換技術の開発が望まれています.当研究室ではこれらの問題を解決するために,触媒を用いた二酸化炭素固定化・回収・利用技術開発,振動エネルギーを利用した新しい触媒反応系の開発,特異な幾何構造・バンド構造を活かした低温触媒反応系の開発を目指しています.
(4) 放射光分光を用いたオペランド計測合成および触媒反応下の金属および金属酸化物クラスターの構造(コア構造,ドーパント位置,界面構造)や電子状態の動的挙動の解明は,機能および反応機構を知るために重要です.放射光施設を利用したX線吸収分光法は,目的の金属の電子状態やその周囲の局所構造を得ることができるだけでなく,ミリ秒~数秒の時間で1スペクトルを測定することができるため,目的の金属の状態変化をその場観察することが可能です.この特徴を活かし, X線吸収分光法とその他の計測技術(紫外可視吸収分光法,赤外吸収分光法,ガスクロマトグラフィー,質量分析法等)を組み合わせたオペランド計測により,合成機構や触媒作用を解明し,次世代の機能性材料を開発するための設計指針を得ることを目指します.